SANYO COAT

春は、くる。

春は、くる。
冬の匂いのするこのひとのコートに
顔をうずめて私は
誰にも聞こえないように
そうつぶやいた
春は、くる。
あの人が不意にそうつぶやいた
私の言葉など聞こえなかったくせに
私の髪の匂いをかぐように
私をそのまま抱き寄せた
その言葉を聞いて
このひとの春とわたしの春は
春になるときっと
すれ違うのだろうと思った
春は、くる。
きっと春は
この傷をなつかしいものに
変えてくれるはずだ
そう思いながら私は
このままずっと 冬でもいいかもしれないと
思った
冬の匂いのするこのひとのコートが好きだから
春は、くる。